Ga4oシネマズ

映画評論を全文書き起こししました。

町山智浩さんの『風立ちぬ』の解説が深かったので書き起こしました。

f:id:ga4o:20140524221819j:plain

TBS RADIO たまむすび: 町山智浩アーカイブ

TBSラジオたまむすびで町山智浩さんが映画『風立ちぬ』の解説をしていたので、書き起こしました。1週間以内ならリンクから音声が聞けます。

 

書き起こしました。                

町山)よろしくおねがいします。『風立ちぬ』を観るために帰ってきました。僕の友だちが大絶賛なんですよ。「観ろー」とか「泣いた」っていう話でね、「特にお前のようなやつは観ろ」みたいな話があって。 

赤江)実は私観たんです。正直、ん?っていう所が多くて、でもねこういう巨匠の作品を「わからん」って言うと馬鹿だと思われると思って、黙っておこうみたいなぐらい、正直ん?これどう捉えたらいいんだろう?みたいな感じだったんです。

町山)評判はあんまり良くないんですよ、一般的には。

山里)僕も観に行った友達から、あんまりだったみたいな話を聞いて、それで観に行ってないんですよ。 

町山)そう。一般観客の評判はあまり良くないんですよ。そうだろうなと思いましたよ。というのはクライマックスがないんですよ、はっきりした。物語の目的がわからないんですよ。主人公は何に向かっていて、何を解決しなきゃいけないのかという、一般的な物語って必ずそれがあって、それを解決してみんな終わるわけじゃないですか。それがないから、どう観たらいいかわからないって人が多いですね。

 

宮崎監督の妄想なんですよ

f:id:ga4o:20140524223141j:plain

後ね、もうひとつはね、これはどういった話かっていいますと、宮崎駿監督がずっとプラモデル雑誌に連載していたマンガの映画化なんですよ。

モデルグラフィックス』っていうプラモデル雑誌があって、それにずーっと昔からマンガを連載しているんですよ。その映画化なんですが、実際の人物についての映画化でもあるんですね。

 

f:id:ga4o:20140524223204j:plain

堀越二郎さんていう零式戦闘機を設計した人と、全然関係ない名前だけ1文字だけ同じの堀辰雄っていう小説家がいまして、その人は自分の奥さんが、奥さんっていうか婚約者が結核で若くして死んだっていう実際の体験を書いた小説で『風立ちぬ』っていう小説があるんですね。

それをごっちゃにしたものなんですよ。一緒くたにしてて、しかも婚約者っていうか、中では結婚しているんですけども、奥さんが死んだっていう話は全然堀越二郎さんの話とは無関係なんです。勝手にこの人の奥さん死んだって話にしちゃってるんですよ。笑

 赤江)それを知らずに観ている人は、堀越二郎さんの奥さんはこういう感じだったのかなって思いますよね。

 町山)そう思っちゃう人もいますよね。実際に現実の人物だった堀越二郎さんの実話と、堀辰雄さんの実話を元にした小説をごっちゃにしたんですよ。全然関係ない二人の人物の体験を一人の人にしちゃっているんですよ。

これいいのかなって思ったら遺族の方が許可を出したらしいですけど。これは妄想なんですよ。宮崎監督の妄想なんですよ。宮崎さんの原作のマンガにははっきりと妄想と書いてるんですよ。これは私の妄想であるってちゃんと書かれているんです。

赤江)だからね映画の中にわりと夢が出てきますよね。夢のシーンが多いですよね。

町山)そうなんですよ。これは主人公の堀越二郎さんが、何かを見るたびに自分の飛行機のいろんな設計のアイデアと結びつけて妄想するんですよ。次々と想像してハッと現実に戻るっていうのを繰り返すんですよね。

だから昔の映画で『虹をつかむ男』っていう映画がアメリカの映画がありまして、それは主人公が常に妄想してて、なにか見ると妄想してっていうのが現実として映画の中では映像化されるから、観てるほうはどこまでが夢でどこまでが現実なのかわからないっていう映画があるんですけど、それに近い、『虹をつかむ男』系の映画なんですよね。

山里)『中学生円山』もそういうような映画ですよね。

町山)そうそうそう!『中学生円山』もクドカンのやつも主人公の中学生が、すぐにあいつはスパイじゃないかって思うと、スパイ・アクションが展開したり、あいつはなんかクンフーの達人じゃないかって思うと、クンフーアクションになったり、中学生の妄想をそのまま映像の中に入れちゃってるんですよね。それをアニメでやってるんですよ。

 

自分の考えていること、決して口に出して言わないんですよ。

これね、1番わかんないのが、主人公の堀越二郎さんが自分の考えていること、決して口に出して言わないんですよ。寡黙なんですよ。で、最近の日本映画って特にそうですけど、主人公たちが全部自分の思っていることを言って、ディスカッションするんですよ。そういう映画ばっかりなんですよ。ひどいことになってるんですよ。

こないだ飛行機に乗ってこっち来るときにですね、『藁の楯』っていう映画観てたんですけど、それで松嶋菜々子さんが刑事で、連続殺人鬼の藤原竜也君をずっと連行する話なんですけども。藤原竜也君がいきなり松嶋菜々子さんをぶっ殺すんですよ、突然。その時に「何で殺したんだ!」って言うと、「このババア、くせーんだよ!」って言うんですけど、なんてひどいことを言うんだって思いますけど、こんなこと言うかーッて思うんですけど、全員が全員が思っていることをぶちまけあうんですよ、日本映画って最近。全部説明するんですよ。「私はこういうこと思ってますよ」とか「俺はそうは思わない」とか。それに慣れると『風立ちぬ』っていう映画はわからないんですよ。

なんにも言わないんですよ、この人。で、これは戦争が起こり始めてるっていうか戦争に向かい始めているんですけども、それに対して彼は武器を作るっていう仕事をしてるわけですね、戦闘機を作るっていう。その葛藤があるだろうとみんなは思うんですけど、葛藤に関して主人公は何も言わないんですよ。だからやっぱり、それを言ったほうがいいんじゃないのって他の日本映画だったら言っちゃうんですよ。会話でねディスカッションしたりするんですよ、「戦争というのは」とか言って。

言わないんですよ、これは。

山里)「俺はこんなために作ってるんじゃない」みたいなこと。

町山)そうそうそう!そういうこと言うんですよ。「俺はホントは空を飛ぶのが好きで」とか言って、「でも戦争は良くない」とかね。

言わないんですよ!言うのは下品ですよ、やっぱそれは。当時の人達は思っていても言えなかったんだろうし。

 

わかってくれっていう映画

f:id:ga4o:20140524223515j:plain

だからこれね、でも言ってるっていうね、すごくわかる人だけに言ってるっていうか、わかってくれっていう映画なんですね。

例えばユンカースっていうドイツの航空機会社に視察に行く所あるんですね、この堀越二郎が。で、ユンカースっていう人が作った爆撃機を見るんですけども、それだけなんですよ。それで突然警察みたいのが出てきたり、軍隊観たいのが出てきて、謎の行動が周りで行われているらしいんですけども、一体それが何かわからないんですよ、映画観てると。

で、それはどういうことかって言うと、まずユンカースっていう人は戦争に反対していたんですね。ユンカースっていう博士がいて、爆撃機とかを開発した人なんですけども、爆撃機とかを作りながらもすごいナチスに逆らってて、最後はナチスに監禁されて死んでいくんですよ。そういう人生をたどった博士で、偉大な航空工学家なんですけども、その人の人生って、まさに戦争に反対しながらも兵器を作るっていう人の代表ですよね。

それを出すっていうことで、わかってくれよなんですよ。説明はないんですよ。一瞬なんですよね。

あと、途中でドイツ人が出てくるんですよね、謎の。軽井沢に行くと、軽井沢に主人公が行く理由もほとんどわからないんですけが、軽井沢に行くと、ドイツ人がいて、友情ができるんですね。でね、いい曲がかかるんですけど、今かけていただけますか。『ただ一度だけ』という歌。『ただ一度だけ』という主題歌なんですよドイツ映画の『会議は踊る』という映画の。それを全員で、ビアホールみたいなところで合唱するシーンがありますね。


ただ一度の (ドイツ映画「会議は踊る」より) 高橋晴行 - YouTube

風立ちぬ」で二郎と菜緒子が療養より二人でいることを選んだ心の内は、軽井沢で合唱する「ただ一度だけ」の歌詞が語り尽くしている。BY町山智浩

 

f:id:ga4o:20140524223649j:plain

あのドイツ人っていうのは何かって言うと、あのドイツ人は「ドイツは戦争に向かっている」「日本は戦争に向かっているよ」と、「我々は破滅するよ」と堀越二郎に言うんですけど、そうすると堀越二郎はそれを受けいれるんですよね、「そうですね」って言うんですね。「そうじゃない!」って言うべきじゃないですか、その頃の日本じゃ。「日本は絶対勝つ」とか言うべきじゃないですか。言わないんですよね。受け入れるんですけど、あのドイツ人は誰かって言ったら、あれはソ連のスパイですよ。おそらく。

逃げてるでしょ。逃げるシーンがあるでしょ。あれはゾルゲでしょおそらくは、ソ連のスパイ。

赤江)あー!そうなんですか!

町山)セリフには出てこないし、わからないですけど、たぶんゾルゲのような人物であって、ドイツや日本の戦争をやめさせようとか思っているドイツ人で、軽井沢に潜入してきただろうというところがあるんですが、何もそれを言わないんですよ、この映画は。

赤江)そうだ!ほんとにそう!

モネのタッチで描いてある

町山)そういうことをね、ずーっとやってるんです。例えばすごく印象的な絵柄でですね、初めて主人公が菜穂子さんに合うっていうシーンがあるんですけど。菜穂子さんっていうのは『風立ちぬ』の主人公の名前をそのまま使ってるんですけども、丘の上に立ってパラソルを持ってですね、絵を書いてるっていうシーンで、これで出会うんですけども、この絵っていうのが最初のモチーフになってるんですね、『風立ちぬ』っていう原作の。

 *菜穂子は「風立ちぬ」のヒロインの名ではなく、堀辰雄の「菜穂子」のヒロインです。後に訂正されてます。

 

パラソルを持った夫人

f:id:ga4o:20140524223817j:plain

これって一体何かっていうとクロード・モネの絵なんですよ、元々。

有名な『パラソルを持った夫人』なんですよね。こういったいろんなイメージが中に出てきて、特にクロード・モネの絵のイメージっていうのは全体に散りばめられていて、例えば関東大震災のシーンはすごいですけども、あれで雲がぶわーって広がるところもモネのタッチで暗雲を描いてるんですね、爆煙とかを。これすごいことをやってるんですよね、結構。

 

どんなに危険なときにも妄想をやめない

あそこでこう、煙が、ものすごい火災が起きて、大震災で。すると煙が舞い散るところで、主人公の堀越二郎は、突然妄想を始めて、飛行機が飛んでる妄想をするんですね、爆撃の妄想みたいなものを。この人はどんなに危険なときにも妄想をやめないんですよ。これはね、僕の友達の映画監督たちがみんな、「俺だよ!」っていうんですよ、彼らは。みんな「あれは俺だ!」って言ってるんですよ。

どんなに自分が危険な状態にあっても、常に自分の妄想の中に入っていくんですよ。これは映画監督とか、シナリオライターをやっている人たちとか、撮影とかやってる人、アニメーターとかはみんなそんな人達ですよ。

道を歩きながらビルを見上げて、ビルの向こうから怪獣が出てくるのを想像するんですよ、彼らは。それこそ大震災であるとか、大変な事件があって悲劇が起こっても、どう撮ろうか、どう表現しようかってことばっかり彼らは考えるんですよ。頭のなかに絵コンテがバーって出てくるんですよ。

そういう人たちなんですよ。そういう人種なんですよ。それは非常に不謹慎な人たちですよ、はっきり言いとね。けど、そういうものなんですよ。ものを作る人達っていうのはそういうところがあるんですよ。

で、この人はまさに戦争の道具である戦闘機を作るんだけども、戦争そのものに対して責任はどうなのかっていう事を問うているわけですね、この作品の中で。で、宮崎駿さん自身がそういう人で、とにかく戦闘機とか戦車が大大大好きな人なんですよ。でも、反戦映画を撮っているでしょ。戦争はいけないんだっていうことを映画の中で言うじゃないですか。でもその割には戦闘シーンをめちゃくちゃ快感で撮ってるじゃないと。あんた戦争の道具大好きでしょうと。大好きですよ、でも戦争は絶対いけないと思うと。そうした矛盾した気持ちっていうのを持ってるのが、こういった物をつくってる人たちなんですね。

 

f:id:ga4o:20140524223927j:plain

オッペンハイマー

アニメーターである宮崎さんは、そういった形で戦争の快楽っていうのを描きながらも、それは悲劇であると同時に訴えると。で、こういった技術者の人たちは、戦争に反対しながらも兵器を作る。具体的にはオッペンハイマーという人がいまして、その人は原爆の父なんですけども、原爆を作ったんですけども、原爆の使用には反対してたんですよ。死ぬまで核戦争とか、そういったものに反対し続けて、平和主義者だったけども、だけど技術者としては原爆を作りたいわけですよ、作れるんだもん俺には。できちゃったよ、でも使わないで。っていうまさにそういうところですよね。

だから零戦を作ったってところで、零戦っていうのは何百機も何千機も作られましたけども、乗った人は全員死んだんですよ。これは大変なことで、自分が作ったもので何百人、何千人っていう人が死んだってことで、ものすごい辛い罪を背負ったわけですけども、まさしくオッペンハイマーと同じですよね。

 

男の子の病

f:id:ga4o:20140524224006j:plain

でもね映画作っている人達はみんなそうでね、スピルバーグっていう監督がいますね。あの人はね、ものすごい戦争マニアなんですよ。『プライベート・ライアン』とか『戦火の馬』とか作ってますけど、とにかくどんな映画監督よりも戦争を忠実に、現実通りに描く人で、兵器マニアとか軍事マニアの人はスピルバーグの映画だと大喜びするわけですよ。細かい制服の、軍服のバッジみたいなところまで忠実なんですよ、スピルバーグの映画っていうのは。

それなのにあの人戦争は大っ嫌いなんですよ。『ミュンヘン』とか『シンドラーのリスト』とかで戦争を絶対に反対する男達の映画を描いているわけですね。戦争は絶対いけないんだと言いながら、誰よりも戦争が好きでたまらないんですよ、スピルバーグは。

それはたぶんね、ほとんどの男の子はそうだと思います、みんな。例えば富野由悠季さんっていうガンダムの人も、戦争を子供の時に体験して、戦争モノじゃないですか、ガンダムとかって、でもそれでどうなるのかっていうと悲劇しか待っていないんですよね、現実ではね。それもちゃんと描くというね。これは男の子の病気です。男の子の病です。

 

映画っていうのは誰に対しても開かれているってものじゃ決してない

赤江)だから男性のほうがもっかい観たいっていう人多かったです。

町山)そう。だってこれに出てくるの、メカいっぱい出てくるじゃないですか。電車から市電から一銭蒸気っていう小さい蒸気船も出てきますけど、それから空母から戦艦から出てきますけど、あの描写観てるだけでも、男の子はたまらないわけですよ。

ネジがまた重要なんですよ、リベットっていうんですけど、あれね沈頭鋲っていう、鉄板というかジラルミンの板をつなぐのにですね、鋲を打ってるんですね、戦闘機の表面にね。あの鋲が出っ張ってると空気抵抗が出るんで、出っ張らないやつをつけるんだみたいな話が延々と出てくるんですけど、あれは俺たちにとっては最高の話なんですよ!ネタとして。

宮崎さんっていうのはとにかく、兵器に打たれた鋲の描写っていうのにものすごいこだわってた人なんですよ。あの人のメカって必ず鋲が書いてあるんですよ。あの人以前のアニメには鋲は書いてなかったんですよ。

だから鋲にこだわるっていうのがあって、主人公の堀越さんっていうのは、この映画の中では『魔女の宅急便』に出てくるとんぼ君っていう男の子いたでしょ、メガネかけた、あれが成長した姿なんですよ。飛行機が大好きでっていう、あの男の子。で、『ラピュタ』に出てくるパズーもそうですけど、機械が大好きで。あれも全部宮崎さん自身なんですよ。機械が大好きで大好きでたまらないという自分自身ですよね、でも戦争は嫌いだと言う風に描いてるんで、ほんとにこれは普通の人がどうこうっていう問題ではなくて、映画っていうのは誰に対してもひらかれてるっていのじゃ決してないんですよ。個人的な映画っていうのもあるんですよね。すごく個人的な映画です。これは私のことであるっていうことで。

 

庵野さんのような人じゃなきゃ出来ない声

f:id:ga4o:20140524224208j:plain

だから声優さんにですね、庵野秀明さんを使ってるんですけども、『エヴァンゲリオン』の監督なんですけども、これは結構棒読みだとか、素人だとか言われて批判されてるんですけども、あれは声優さんだとか、プロの人が、要するに世慣れして、誰の心も演じられるような人が演じちゃだめで、人の心なんかわからないし、世の中のこともわからないけども、好きな事をやり続けるアホのような男が声をやらないといけないんですよ。だから庵野さんにやらせたんですよ。

庵野さんはぼーっとしてるわけですね、声出しながら。で、人の話を聞いていないっていうシーンが凄く多いんですよね。聞いてない、妄想してるんですよ。「なんだっけ」って言ったり、返事もしない。そういう人じゃないとこの声は出来ないんですよ。

裏情報で失礼なんですけども、庵野さんの奥さんはこの映画を観た後、ほんとに泣いたらしいですね。そういう男と結婚してしまった悲劇でもあると(笑)。でも、それで嫌いになれないでしょ、そういう男を。夢見てる男なんだもん、常に。そういうドラマだったんですね。

 

男の子の飛行機ごっこ

これ飛行機が飛ぶところを、「プルップルップルッ」って口で言ってるんですよ、この映画って。「プーン、プルプルプル」とかね「ヒューン」って声で出してるんですよ。何故それをやってるか、ごっこ遊びですよ。おもちゃの飛行機をもって子どもたちが、「プルプルプル」とか「ブーン」ってやるじゃないですか、あれを映画でやってるんですよ、これは。男の子の飛行機ごっこですよ。

そういう物語だとね、僕は昨日ある映画監督と朝までずっと飲んでてね、そういう話をずっとしてたんですけどね(笑)。

これね、みんな言ってたのは、なんか見ると、飛行機が飛んでても、飛行機がこうなって爆破したらどうだろうって想像しながら観るんですよ。自動車が走っててもね、ここで横転してとかね、それでアニメーションするわけですよ、頭のなかで。妄想族なんですよ。オレたち妄想族っていう話ですからね、これね。エッチな妄想もしますけどね、そういう男の子妄想もするんですけどね。

 

口で言って、みんなにわからせる事じゃないんですよ。

べらべらしゃべって、自分の思想とか、政治とかぶつける人が、零戦作ったり、アニメ作ったり、映画監督なったりしないですよ。わけのわかってない人はやるんですけどね。物を作る人は、絵描きもそうですけどね、だから作品を作るんですよ。だから俺みたいにしゃべっている人はなかなか作品を作らないっていうね気もしますが(笑)、しゃべりを作品にしてるんでね。

だからこの作品で最後『ひこうき雲』が流れるんですけどね、荒井由実さんの。この歌は『ひこうき雲』ってことでつながってるっていうの一つあるんですけども、この歌詞の中にすごく重要なのが、「今はわからない ほかの人にはわからない」っていう歌詞が出てくるんですよ。まさにほかの人にはわからないんですよ。わからない人にはこの堀越二郎の気持ちはわからないだろうと。確かに心のなかには何百人もの、何千人も死んでった、自分の飛行機で死んでった人たちへの気持ちはあったでしょうね。当然あったでしょう。それがどういう気持ちかっていうのは口で言って、みんなにわからせる事じゃないんですよ。

 

芸術とか技術とかはほんと個人的なもの

赤江)かっこいい!なんだろう、すごい時間が経ってから響いてきちゃった。

町山)だからね、この歌を選んだのはすごいなって思いましたね。

赤江)そういうことか、だから宮崎監督もこの映画を見て泣けたって言ってたんですね。

町山)自分の事だからですよ。自分で自分の映画作って自分で泣いているっていうね。笑

そういうことでいいのかって言う気もしますけどね、いいんですよ。それが作品なんですよね。芸術っていうのはそういうものなんで。芸術とか技術とかはほんと個人的なものなんで、実際は。

それが実は社会と結びついていく中で起こってくる、すれ違いみたいなっていうのは時に悲劇を起こすし、あの映画わかんねえよって普通の人たちが言うとかね。家族連れで行ってもわかりゃしないわけですよ。こどもなんかこんなの飽きちゃいますよ。絶対。

 

宮崎監督の作品としては画期的な描写

でもやっぱり、宮崎監督の作品としてはものすごく一歩突き抜けたなあと思うのは、セックス描写があったってことですね。初夜で結ばれるってところをはっきりと描いてますから、直接描写はないですけど、もちろん。で、その後彼を抱きしめるシーンがあるんですけど、菜穂子さんが。その時「やってきてくれたのね」って抱きしめて、その後ぐーっと腕に力を入れて回してくっていうシーンがあって、

赤江)そうなんですよ、そこがものすごいね今までぼーっとしてたのに、ものすごい男だなみたいな感じなんですよ。

町山)そう!生々しいんでしょ。それで頬と頬が擦れ合ってみたいな感じが、あの生々しい描写っていうは日本のアニメの中で最近珍しいですよね。まあ日本のアニメにそれをやったのがあってですね、それに対する対抗でやったっていう説もあるんですけども、まあそれは置いといて、宮崎監督の作品としては画期的な描写だったと思いますね。

赤江)ということで今日は町山さんに宮崎駿監督の最新作『風立ちぬ』の紹介、そして解説をしていただきありがとうございました。

町山)どうもでした。