Ga4oシネマズ

映画評論を全文書き起こししました。

中森明夫さんの「アナと雪の女王」の解説が秀逸なので全文書き起こししてみた。

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エルサとアナっていうのは、実は一人の女性の中にある二つの人格。二つの生き方だと思ったんですよ。

中森:

実はね、僕の観たポイントって言うとなにかと言うとね、

実は、姉妹として描かれているんだけど、実は意味的にね、

姉妹の愛を描いた話しじゃないんじゃないか。これは僕のポイントです。

 

だってこの映画を観たら、幼いころ仲が良かったお姉ちゃんと妹が、

訳あって二人が隔離されるって描いています。でも、観てる側はそうじゃない。

特に女性はね。何かというと、僕はこれはね、エルサとアナっていうのは、

実は一人の女性の中にある二つの人格。二つの生き方だと思ったんですよ。

 

それはどういうことか、じゃあ雪の女王ですね。雪の女王っていうのが、

皆さんの中にあるんですよ。雪の女王っていうのはなにかっていうと、自らの能力を制御なく発揮する女性のことです。

女性っていうのは、制御するように育てられちゃっているんですよ。

例えばハイヒール履くでしょ。何でハイヒール履くんですか?走りにくいように、動きにくいように、運動能力を制御するようになっているんですよ。

スカート履くでしょ、めくれちゃうから動けないじゃないですか。

そういう風に、女性っていうのは小さい時から制御されている。

で、エルサみたいに小さい時から能力を発揮していると、

そうすると、「やめなさい。女の子らしくないから。」と言われる。

 

垣花:エルサの魔法っていうのは自分で制御できないんですよね。

 

中森:

そう。できない。小さい時から喜んで使っていたら、そうなっちゃったでしょ。だから閉じ込めちゃう。

そのようにあらゆる女性たちは、心のなかに雪の女王を閉じ込めてるんですよ。

それでアナとして生きている。アナっていうのは何かって言うと、魔法のことを忘れて、しかも可愛らしい少女ですよね。

ある意味普通の、それで王子様を待っている。ほとんどの女性たちっていうのは、普通で、愛らしく、王子様を待っているように見えながら、

心の底に、雪の女王エルサを閉じ込めているんです。これが僕の理屈。

 

観てる女性たちの雪の女王が開放されるんですよ。


『アナと雪の女王』特別映像:「Let It Go」/イディナ・メンゼル - YouTube

なんで、「Let It Go」で、みんな大感動するのかって言うと、

普通ね、映画のテーマ曲っいうのは、一番クライマックスにかかるものじゃないですか。そうすると、この映画のクライマックスは、アナがどう救済されるか、救われるかっていうシーンだと思うんですよ、最終盤の。

ところがかなり前盤、中盤の、雪の女王が追放されて、雪山の中に閉じ込められて、一人で能力を全開にするとこなんですよ。

あそこで、「ありのままで」「Let It Go」がかかって、みんな感動する。

それはね、観てる女性たちの雪の女王が開放されるんですよ。

 

あれはね、僕ら想像力のある男、垣花さんや僕みたいに、つまりねあらゆる人間は、ありのままに生きていないんですよね。だから閉じ込められているからそれを開放する。とりわけ女性たちは、あそこで開放する。

で、この歌大変ですよ。世界中の子供達が歌っているわけですから。

もうディズニーだから、これからあの歌を聞いた子どもたちは、ありのままに生きちゃいますよ。

 

お母さんの松田聖子さん。これは雪の女王ですよ。あきらかに。

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中森:

もう一つ言うと、これは吹き替え版で観ると、アナを神田沙也加さんがやっていますよね。

そうすると、雪の女王っているんですよね。雪の女王ってなにかってい言いますと、さっき言ったように制御せず、能力を発揮する。閉じ込めていない人がいるんですよ。そうするとどうなるか。

お母さんの松田聖子さん。これは雪の女王ですよ。あきらかに。

だからナイスキャスティングだと思いました。80年代にアイドルが恋愛なんかしちゃいけませんって閉じ込められている時に、

自由恋愛で、郷ひろみの王子様を袖にして、自分の欲望を全開にしたんですよ。それで猛バッシングされて、追放されたわけじゃないですか。

 

垣花:それでも松田聖子さんは聖子さんらしく生き続けたことによって、ありのままに生き続けた。そのお嬢さんとして生まれたさやかさんとしてみれば、いろいろ頑張って、ミュージカルの部隊もほんと数踏んできてますよ。実力もある。

 

中森:しかしアナでいつづけたんですよ。

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でも、じゃあ松たか子ってなにっていうとね、松たか子さんといえばですよ、幸四郎さんの娘さん。歌舞伎の名門一族のお嬢様ですよ。

歌舞伎っていうのは女性が舞台に立てないんですよ。女性として生まれたら、

「なんだ女の子か。男の子だったら歌舞伎の舞台に立てたのに」って言われて育ったんです。能力を制御されてた。それを歌舞伎ではなくて別の舞台に発揮した。彼女もまた雪の女王だったわけですよ。

 

垣花:彼女が「ありのままに」を歌う意味合いって、あそこまで力を込めて歌う意味合いって、そこにあるんですね。

 

この曲は、世の中を変えてしまうと思うんですよね。

中森:

そうなんですよ。でもねこれはね皮肉な話でね、「Let it go」ってこれだけ全世界で歌われて、これはもう21世紀が生んだスタンダードナンバーですよね。

ある意味で「マイ・ウェイ」とか「イエスタデイ」とかああいう曲になりました。歌い継がれていきます。

でもこの曲は、世の中を変えてしまうと思うんですよね。さっき言ったみたいに、自分の脳力を開放する歌だから。

しかしこれがこんだけヒットしているということは、いかにみんながありのままに生きていないかってことですよ。

 

垣花:だからあの画面の中で初めて能力を全開にしたあのシーンに、ものすごい感動、爽快感を味わうわけですね。

それを考えれば、どこまで意図してキャスティング松たか子さん、神田沙也加さんをキャスティングしたのかわかりませんけども、

ものすごいベストマッチだったわけですね。

 

中森:

そうそうそう。でもね、やはりねこういう風にうまく話してしまうんですけども、この構図っていうのは、これだけ世界でヒットするっていうのは、やはりどこの国どこの社会でもそうなんですよ。ある意味では。

 

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でもねこれ、いろんなことに言えるんですよね。小保方さん。最初は能力あるって言われたのが、リケジョならぬ魔女扱いで、理化学研究所という王子様に、裏切られて、王国を追放されて、「STAP細胞あります!」あれは「Let it go」ですよ、完全に。

 

垣花:「STAP細胞あります」っていう瞬間に、あの曲かけたら絵になりますもんね。(笑)

 

二つの人格の和解の物語。

中森:

でもね、これを僕があんまり言うとね、フェミニズムっぽいんじゃないかって言われるかもしれないんですけども、こうも言えるんですよね。

つまり、これは女性の中にある二つの人格ですよね。つまり雪の女王を閉じ込めて、アナとして生きているっていうね、この分裂を生きている。

これを最後まで、ある意味この和解の物語だとも言えますよ。つまりアナもただ王子様を待っている女の子だったのが、自分が主体的に生きなきゃって変える。

そしてエルサも自分の能力を制御できるようになるっていう話でしょ。でも制御できるようになるには、まず一回「Let it go」で解放しなければそこに行かないっていう話じゃないですか。

 

僕はディズニーがこれをやったっていうのはすごいと思いますよ。だってディズニーは、シンデレラ城が象徴的なように、シンデレラとか眠り姫が出てきて、王子様が出てきて、シャンシャンみたいなね、

だいたいそういう保守的な、いわゆる昔の童話をリメイクしたてやってたものじゃないですか。

それがこんだけ、全くガラッと変えると。

 

垣花:これからの女性は白馬の王子様を待たなくなるっていうことですか?

 

中森:待たなくなりますよ。これは。

 

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これはなんの構図にも言えるんです。例えば指原莉乃雪の女王でね、まゆゆはアナなんですよ。

でももう日本じゃ雪の女王が、AKBじゃばっとやってるじゃないですか。

僕は、僕の理屈だと、まゆゆの中にも雪の女王がいるはずなんですよ。それを開放したらもう大事ですよ。

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垣花:この「アナと雪の女王」を監督したのは女性のかたなんですね。

 

中森:そうそう。女性の監督が一緒に入ってきて、共同作業で作っている内にこうなったっていうんですね。

だいたいハリウッドの映画っていうのは、全部きめ細かく決めて。

だってあんなのおかしいんですよね。さっき言いましたとおり、途中で盛り上がりのテーマ曲が変わるのは。だからそこが、ハリウッドってすごいなっていうところですよね。

 

だからね、ぼくはね風立ちぬ零戦は、雪の女王にパッと凍らされちゃいます。あんまり言うと、宮﨑駿ファンにね、総攻撃受けるんですけどね。(笑)

 

世界を変えるっていうのはこういうものだと思いましたよね。

垣花:ただそういう意味では、物語の作り方、キャラクター設計から含めて、単なるアニメーション映画じゃなくて、大きく何か踏み出した一作なんですね。

 

中森:いやーこれは、世界を変えるっていうのはこういうものだと思いましたよね。子どもたちが観るんですよ、これ。

そうするとね、僕はね、こういうことを言ってね、「女性の応援ばっかしててね、お前なんだ」って言われるんですよね。

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そうすると、男の側でいうと、ハンス王子っていうのがいますよね。それから山男のクリストフっていうのがいるじゃないですか。

僕は王子様と同じで50超えて独身で、アイドルファンでね、こんな面白おかしいことやってね、僕は何の立場でこういっているか。雪だるまのオラフ。

面白おかしいオラフですよ。(笑)

これピエール瀧さんの声優良かったけど、僕は柳沢慎吾さんにやって欲しかったなと思っていますね。

それで面白おかしいこと言って、「僕のことギュッとしてー」って言ってね、ギュッとしたら溶けちゃうっていうね、そういうオチまで考えたわけですよ。(笑)

 

ぼくはこれね、ディズニーっていうのは、ある意味王政なきアメリカの皇室ですよ、いわば。それがこんだけ大転換したっていうのは、僕はアメリカっていう国、すごいって思った。

 

垣花:ちなみにこの分析はどっかで発表したんですか?

 

中森:これは来月、中央公論っていうので、発表するんですけどね、ただもうここで言っちゃったから。

ポイントは、アナとエルサが姉妹ではなくて、一人の女性の中にある二つの人格だった。あらゆる女性は雪の女王を閉じ込めながら、アナとして生きて、この映画は雪の女王を開放する映画だ。

これみなさん言ってくだされば、©中森明夫で。(笑)

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下記から内容を聞くことができます。

http://www.youtube.com/watch?v=gduwOV12UKs&sns=tw